2012年5月10日木曜日

小泉純一郎 vs 荒井広幸



小泉純一郎

たった一年で「暴論」が「正論」になった


−−政治家にしろ、各界のオピニオン・リーダーにしろ、誰もが「行政改革」と「規制緩和」の必要性を口にする時代ですが、いざとなると「総論賛成、各論反対」で、ほとんど何の変化も起こらない。あるいは何の変化も起こそうとしない。そうした中で、政治家としては例外的に小泉さんは「郵政三事業の民営化」という具体的な政策課題を掲げ、各論レベルでの論議を喚起されています。今日は単刀直入に、おうかがいしたい。行革が必要であるとして、なぜ「郵政三事業の民営化」がもっとも優先されるべきだと、お考えなのですか。

小泉▼この数年来、行政改革については論議が積み重ねられてきたのですが、中でもとりわけ、「税金の無駄使い」とか「官僚の天下り先」として批判のある92の特殊法人の統廃合が焦点となっていた。ところが、あれほど政治主導でやると公約してきたにもかかわらず、4年もかけて討議してきた結果、決まったのは、日本輸出入銀行と日本開発銀行の統合だけでした。統合して、ではどれだけ事業が縮小されるかというと、たいして変わらない。はっきりしているのは、総裁がひとりになり、官僚の天下りポストがひとつ減った、それだけなんです。
 そもそも、この特殊法人は、なぜ事業活動できるのか? それは財政投融資制度から資金が出ているからで、原資となっているのが郵便貯金、簡易保険、年金の 郵政三事業です。そこの金があるから、不必要なところまで金が流れてゆく。だったら、もとを絶ってしまえば、黙っていてもすべての特殊法人の見直しをせざるをえない。行革の根本的理念というものは、「官は民の補完に徹すべし」というもののはず。官業と民業の役割を見直し、どうしても民間にできないことだけ、官が金を出してやるべきだ。
 そう考えてみると、郵政三事業は民間でできないのか。実際には、今でも封書とハガキの配達以外、全部、民間でやっているんですよ。それならば充分に民営化できるはず。しかも、封書やハガキの配達をやらせてくれと民間の方が言っている。なのに、なぜ独占するのか?
 よく行革で大蔵省の分割とか、財政と金融の分離とか、予算を大蔵省から官邸に移せという案が出る。 やってもいいよ。でも、それでどれだけ人が減るのか。ひとりも減らない。どれだけ金が浮くのか。一銭も浮かない。

−−名称を変えるだけで、実質は変わらないと?

小泉▼そう。それに比べれば、郵政三事業を民営化して株を売却すれば、低く見積もっても、10兆円の売却益が出る。なおかつ30万人の役人を減らすことができて、しかもすべての特殊法人の見直しが始まる。一石二鳥どころじゃない。一石数鳥の効果がでる。


4時間勤務の国家公務員


−−過疎地のようにコストのかかる場所でも、ほぼ均一の料金で郵便のサービスは行われています。民営化すると利潤の追求が最優先となり、そうした地域へのサービスがおろそかになり、不利益をこうむる人々が出てくるのではないか、という懸念がありますが。

小泉▼小包を民間に許可するかどうかという時の議論とまったく同じです。今、どうなっているか?
 ほぼ99%の地域に民間の宅配業者が届けているじゃないですか。小包ができるのに、封書、ハガキができない理由はない。郵政省は、民間の宅配便がスタートしてから以後、郵便小包の配達料金の大口割引を始めた。民間が入って競争が始まったから値下げをしたわけです。結局、こうした競争を避けるために、封書、ハガキの配達の独占を維持したいだけではないか。それでは本末転倒じゃないか。
 ちなみに今、民間の業者がクレジットカードの配達を始めようとして、裁判になっているんです。

−−ヤマト運輸ですね。

小泉▼そうです。郵政省は「クレジットカードは信書であり、配達してはならない」と主張する。民間業者では、信書を配達する際の守秘義務を守れないと言うのです。こんなおかしな話はない。
 郵便局は年末になればアルバイトを募集している。年賀状配達のアルバイトは民間人です。役人は、「民間の業者は信用できない」と言っておきながら、民間人を使っている。最近では、それでは具合悪いというので、アルバイトを4時間勤務の国家公務員にしようとしている。今、誰もが行政改革で「役人を減らそう」と言っているのに、逆に増やそうとしているわけです。「行革が必要だ」という世論を屁とも思わない、役人のこの傲慢さ。自らの仕事を決して減らそうとせず、民間の仕事を奪う形で自らの権限を広 げていき、人数を増やしていく。この肥大化、増殖意欲というものは恐るべきものです。
 来年になりますと、旧国鉄債務の返済問題が大きな課題になってきます。今のままだと、27兆円以上が国民負担ということになる。仮にJRの持っている土地を全部処分するとか、株式を全部売却しても、7兆円分にもならないといわれている。となると、少なくとも20兆円は国民が負担しなきゃならん。どうやって負担するんだ? 増税か? あるいは借金して先送りか? 運賃を値上げするのか? ともかく国民負担は決まっている。放っておいたら、また財投が使われるでしょう。


両親の肥満

−−郵政省は、民間を競合し始めると値下げすると言われましたが、ということは、競争がありさえすれば郵政省も努力するということになる。それならば郵政三事業を民営化しなくても、民間の参入を認めて、競合させたらいいのではないですか。

小泉▼郵政省は、先ほどいったクレジットカードの配達料金を、ここにきて急に値下げしてきた。民間の仕事を奪おうとするのはけしからんが、値下げ自体は結構なことだ。しかし、今言ったように、財政状況はそんなに悠長なことを言ってられない。政府関係機関を民営化して、兆単位の金が出る機関はないんですよ。今年は75兆円が国債の利払い、つまり借金の利子の支払いに回り、何の新規の政策のためにも使えないでいる。こんな状況が、今後も続きます。
 こうした利払いや今言った国鉄債務の20兆円を、増税なりさらなる借金で賄ってもいいのか。それがいいというなら、いいですよ。私は、それはよくないと考える。政府関係機関の徹底した民営化、規制緩和、リストラでそれを賄うべきだ、と。


「規制緩和=失業」は短絡


−−仮に民営化されたとしますと、今度は民営化された郵政事業の収益金は、どうなりますか?

小泉▼民営化をすれば、まず法人税を払うようになるね。今は、法人税も固定資産税も払っていない。それから規制がなくなり、競争がはじまる。郵便局だって、減るどころか増えるだろうな。郵便局がコンビニエンスストアをやってもいい。あるいは漁協とか農協に業務委託してもいい。いろんな方法があるわけで、民営化されれば、それはもう、役人がやってるよりはるかに活気が出る。

−−財政投融資に対して「無駄が多い」などの批判は昔からありますが、しかし同時にODAや福祉などにも使われています。この財源がなくなったら、今後はどうなるのでしょうか。

小泉▼だから、必要かどうかという厳しいチェックがはじまる。必要なところは税金を出せばいい。必要でないところは税金を出さない。それが甘いからこれだけ不良債権を大きくしてきたんです。

−−これはかなりショック療法的ですね。

小泉▼「明日やれ」と言ってるんじゃない。2年かかるのか3年かかるのか、5年かかるのか。その検討をはじめたらいい。ショック療法というけど、私は増税のほうが、よほどショックだと思う。

−−民営化によって、どれだけプラス・マイナスの影響が出るかという点に関して、緻密な計算はされたんでしょうか。

小泉▼それは専門家がやればいいんです。政治の大事なことは方針を示すことです。今までは政治家が「よきにはからえ」と官僚にまかせきりにしてきたから、各省庁がバラバラに予算を要求して、やりたいことをやってきた。国家の大方針というのがなかったわけです。その方針を出せば、いい知恵は出てきます。
 郵政省は特定局長会で自民党を、全逓で旧社会党系を、全郵便で旧民社党系を支持し、票で政治をおさえこんでいる。政治家が郵政省に手をつけるのを尻込みするのは、そのためです。いちばん難しい。しかしだからこそ、最初に手をつけたほうがいい。これだけ役人の抵抗が強いところの行革に成功すれば、あとはスムーズに動き出し、全省庁の見直しに必ずつながりますよ。

−−もうひとつ質問があります。急激に規制を緩和した場合には失業率が急に上昇し、社会が不安定になるから駄目だという意見がありますが、これに関しては?

小泉▼ある程度は失業者が出てくるということは、否定できないな。しかし、今のままで行き詰まっていいのか? という選択の問題だよ。あるいは、増税がいいのか? という選択の問題です。

−−ある程度失業者を出しても、産業構造の転換を進める必要がある、ということですか。

小泉▼それはわからない。民間がやる気を出して新しい雇用が生まれ、失業者を吸収するかもしれない。規制緩和や行革によって、すぐに職を失うというのは、短絡的な見方だ。働き口が逆に増えることもある。


野茂のピッチングを見習え!


−−現実問題として、どのような政治手法ならば、その構想を実現できるでしょうか。

小泉▼政治家が既得利権を持ったそれぞれの支援者におもねって、民営化に反対し続ければ、結局、増税しかなくなる。おそらく、次の次の選挙になれば、必ず、民営化がいいのか、増税がいいのかが焦点になる。そうなったらみんな、民営化をやるという方向へ進むでしょう。選挙で一挙に変わりますよ。今は反対している人も、かつての消費税、小選挙区制のときと同じように、くるっと変わる。
 現に、去年の総裁戦に出るまでは、この「郵政三事業の民営化」なんていうのはまったく小泉だけの、例外的な空論、暴論扱いされていた。わずか、一年足らずの今、新進党の中で細川さんが、次の選挙公約のひとつにしようと議論を始めている。あの連合が、「民営化反対」という全逓や全郵政の主張ばかりを聞く のではなく議論しようじゃないか、と言いだした。
 そしてなによりも、この財政状況です。どこに金があるのか? 16兆円の金が、ただただ国家の利払いになってしまう。こんな状況をこれからも続けろという人には、じゃあ、民営化以外に他にどんな手があるのか、教えてくれと私は言いたい。

−−このテーマは政界再編のテコになるとお考えですか?


シカゴのダイヤモンド頭痛クリニック

小泉▼もし今、細川さんが提案している「郵政民営化」「役人の半減」という行政プランを小沢党首のリーダーシップで新進党が次の選挙公約に掲げたら、これは政界激震ですよ。そういう時に逆に、自民党が今のように「郵政民営化反対」と言ってたら、選挙で自民党は絶対に負けるね。守旧派になっちゃうからね。だから今、新進党の動きを注目して見てるんだけどね。

−−自民党の内部での反応はどうですか?

小泉▼だからそれを、私は、議論したい。本当に民営化に反対していいのか、と。このままで自民党は選挙を戦えるのか、と。
 新進党が郵政民営化を選挙公約に掲げたら、小沢さんのイメージが一新されちゃう。この問題が選挙の争点になれば、国民はバカじゃないから、どっちがいいかわかりますよ。

−−仮に自民党が変わりそうにないとはっきりしてきたら、どうします? その時には、細川さんと一緒にやるといったシナリオも想定しているんですか?

小泉▼いや、自民党内でまず戦いますよ。議論を巻き起こし、その結果を見ます。
 どこかの政党が言い出したら、自民党も変わらざるをえない。現在のように、これだけ与党、野党の違いがなくなってくると、ひとつの党の政策が他の政党に大きな影響を与えるんです。だから細川さんが動き出して、小泉だけの議論じゃないということになってきて、むしろ歓迎してるんですよ。
 外からも変え、自民党内からも変え、それによって一挙に行財政改革が進む。そういう希望は捨てていないんです。実は、野茂投手の投球を見ていて、感ずるところがあってね。三振を取るためには、直球ストライクだけじゃ駄目なんだな。三振を取るためには、ボールになるようなタマも投げないと駄目。ワンバウンドするぐら� ��のフォークボールとかね。

−−荒れ球ですね。

小泉▼そう。荒れ球もないと、直球が生きないんです。自民党内だけでやるというのは、ストライクゾーンだけを使うということ。それじゃダメ。三振取るためには、ある時にはボールも投げないと。場合によっては、ワンバウンドするくらいのフォークボールを投げないと直球が生きてこない。両方やるということです。党内でもやるし、党外でもやる。いずれにしても私は希望を捨ててない。消費税に反対だというのは自民党の中にもいた。いったん体勢が決まれば、反対論者も賛成に回りますよ。
 そういう政治の大転換というのは、これからも必ず起こる。そういう時代なんです。




荒井広幸

市場原理で弱者は救済できない



 95年9月に行われた自民党総裁選。小泉氏は、出馬を断念した河野洋平氏にかわって名乗りをあげ、"本命"の橋本龍太郎氏に果敢に挑んで、敗れた。この総裁選の際、小泉擁立のために奔走した若手議員の一人が、"政界の一寸法師"というニックネームを持つ一年生代議士の荒井広幸氏である。
 ところが、この荒井氏が、「郵政三事業民営化」という小泉氏の議論に関しては真っ向から反対論を唱えている。小泉氏の『郵政省解体論』『官僚王国解体論』(共に光文社刊)の向こうを張り、『拝啓、小泉純一郎様。あなたは間違っている』(麻布出版刊)という著書まで発表した。タイトルは挑発的ではあるが、本文中では政治家の手になる本には珍しく、データを駆使してかなり緻密に論を展開している。黙ったまま足� ��引っ張る手合いの多い政界で、こうした"開かれた論戦"はあまり例がない。
 第一衆議院議員会館で小泉氏へのインタビューを終えたあと、その足で同会館内にある荒井氏の部屋に直行し、「反論」の根拠とその真意をたずねた。


赤字には
善玉と悪玉がある



減量製品の独立したレビュー

荒井▼「臭いものには蓋をしろ」というやり方で、公の場での開かれた議論を封じ込めてしまう、これこそが実は五十五年体制そのものでした。そこになんとか風穴を開けなきゃいけない。まして自民党が変わったというなら、後継総裁を密室で決めるのではなく、正論を戦わせ、その上で選挙で決めるべき。談論風発でなくてはいけない。そういう思いがあったからこそ私は、圧倒的不利を承知で自民党総裁選の際に小泉先生をかついだんです。
 しかし、小泉先生の唱える「郵政三事業民営化」論に共鳴したわけではない。当時も今も断固として反対です。間違っているものは間違っていると、やはりはっきり言わなくてはならない。民主主 義は力づくとか裏の駆け引きでやっていては駄目。国民の前で議論しなくては。だから、私は小泉先生と一緒に公開討論もやったりしている。
 また、あの先生は懐が深いからね、一年生議員の私の主張も正面から受けとめて、討論の席についてくれるんだ。そこは素晴らしいが、政策面は私も一歩も譲らないよ。公で議論し、検証がなされたとき、それに耐え得ない主張は消えていかなくてはいけない。民主主義はそうあるべきなんだ。
 小泉先生はまず、事実認識において間違いが多すぎる。たとえば、ヤマト運輸がやっているクール宅急便に対抗して、郵政省がチルド便を始めた。そのために保冷庫を備えたわけだけど、小泉先生は雑誌上などでそれを「税金でやっている」と批判する。やっぱり、こんな嘘言っちゃいけない な。郵便局は独立採算ですから、税金はビタ一文も使っていません。
 ひどい無駄をやっていて、赤字を出しているというなら批判されても仕方がない。だけど郵政事業は30年前まで赤字だったけれど、今は違う。赤字を出さず効率よくやっている部門がなぜ目の仇にされるのか。
 行革は私も必要だと思っている。行政を細部にわたって見直し、無駄を省く必要があるとも思っている。でも、92の特殊法人を潰してしまえ、そのために財政投融資をなくせ、財政の原資となる郵政三事業を民営化しろというのは乱暴すぎる。暴論だよ。それに92の特殊法人をひとくくりにしているけど、そのうち財投が入っているのは60だけ。正確に言えば59.あとひとつは地方団体に一括で出している。こういう具体的な数字、小泉先 生は知らないと思う。アバウトすぎるんだ。
 第一に、特殊法人の存在は、国民が望んでいるからあるんですよ。たとえば現在、住宅金融公庫の利用者は4、50万人いる。国民の皆さんが必要としているから、やってるんだ。国鉄の赤字にしたって、財投をつぎ込んできたから、赤字がひどくなったわけではない。財投を使ったのは、あくまで特例。国の一般財源から持ち出す金も底が尽きた。とはいえ国民の足を守るため、運行しなくちゃいけない。そのため財投を使って、今の27兆円の負債になったわけ。だから、あくまで最初に国鉄の赤字経営体質ありきで、財投が悪いのではない。
 財投をむやみに悪玉視するのは、短絡的すぎる。財投は有償のODAにも投入されていて、国際貢献にも寄与しているし、福祉の財源に もなっている。財政赤字といったって、赤字には善玉と悪玉がある。生活弱者の福祉に使われている赤字は必要悪だよ。
 たとえば国立病院の赤字。その赤字負担に財投も使われている。財投を潰してしまえというなら、国立病院に通院している患者さん達に向かって、私立の高い病院に行けと言ってみて下さい。


私も地元は携帯電話が使えない


−−郵政事業の独占批判に対しての反論は?

荒井▼郵貯や簡保はともかく、郵便はたしかに独占。だけれども、競争させたらば、どんなメリットがあるのか。むしろデメリットの方がずっと大きい。一日一通もハガキがいかない過疎地もある。そういう地方に対しても平等のサービスをやってきた。これは官だったからできたことで、利潤追求第一の民間業者ではそうはいかない。小泉先生の言う通り、たしかに宅急便は全国99パーセントをカバーしたよ。しかし問題なのは、宅配業者は別途料金を取っているということ。つまり過疎地の利用者には、プラスαの料金が加算されているんです。一般の郵便も同じことになったら、結局、不利益をこうむるのは過疎地の人々なんだ。
 市場における競争っていったって、民間はいいとこどりするだけ。民間がやり� ��いのは、信書のような料金の高い分野だけですよ。だいたい、郵便取り扱いの絶対量は、eメールやファックスの出現で減ってきてる。その上、手間がかかって利が薄い。一般の郵便は民営化しても、取扱量の多い大都市圏ならばともかく、地方では採算が合わない。たとえば今、行革が成功したといってもてはやされているニュージーランドなんて、過疎地方の集配は3日に1回だからね。日本もそうなって構わないなんていうのは、大都市に住む人の論理ですよ。小泉先生の選挙区は神奈川県の都市部だ。だから民営化しろなんて言えるんだろうが、私は福島県の農村地帯の代表として、到底容認できないんですよ。


−−郵便は通信である以上に、文化的社会的儀礼の要素もありますね。たとえば年賀状。これなど、通信が目的というより、純粋に儀礼的なものです。今日ではハガキや手紙を書くということは、ある意味では優雅な行為とも言える。電話もファックスもパソコン通信もない時代は、郵便は代替えできない重要な通信機能をになっていたわけですが、現在は他のコミュニケーション手段でかなりの程度、代行できる。そういう時代に、かつてと同等のサービスを何が何でも維持しなくてはいけないのか、という疑念もあります。

荒井▼でも、私の地元では携帯電話が通じないよ。鉄塔を建てるのに1本3億円かかる。採算が合わないから、鉄塔が建たないんだ。

−−それは経済原理の基本でしょう。どんな商品であれ、大量に普及しなければコストダウンはできない。最初に利用者の多い首都圏などで普及をはかってコストダウンしたため、今ではPHSは加入料だけ支払えばOKで、送受信機本体は事実上タダで手に入るまでになった。安くなったからますます加入者が増え、事業全体の規模が大きくなり、通話エリアを次第に拡大していっている。最初から無理して過疎地に鉄塔を建てたら、何年たってもコストは下がらず、普及はおぼつかず、赤字が拡大するだけですよ。

荒井▼だからその「だんだん」という時差こそが、過疎対策の要なんだよ。我われは立ち上がり期の格差是正のスピードを、もっとあげるべきだと主張しているんだ。それこそが「小さな政府」の「大きな役割」ですよ。「あと5年、あと10年」といっているうちに、地方の若者たちは都会に職を求めて出て行き、お年寄りだけが残され、ますます活力を失ってゆく。悪循環なんだ。今までもそうだったが、財投をなくし、福祉を切り捨てたら、過疎地はますますさびれ、生活弱者はますます困窮することになる。同じ国民として生まれ、同じく納税義務を果たしているのに、これではあまりに不公平だ。採算が合わないとか言われるけど、ニューフロンティアとして期待されている高度情報通信の分野にしても、地方� �先でやるべきだと思うよ。
 市場原能は万能じゃない。市場原理に委ねていたらできないことをやるのが政治であり、行政であって、弱者救済のための赤字は許容されるべきだ。


「資産再評価」で100兆円


−−何だか旧社会党議員の話を聞いているみたいですね(笑)。たしかに絶対的なハンディのある弱者に手をさしのべることは必要です。問題は「必要悪」という赤字線引きをどうするのか、そして途方もない規模にまで膨張した財政赤字をどう改善するのか、という点です。

荒井▼線引きの基準となるのは、少子・高齢化社会をどう乗り切るか、という点に求められる。これは21世紀にかけての、最大の政策課題でしょう。弱者にシワ寄せすることなく、この難関を乗り切るためには、高齢者や障害者といった生活弱者と過疎地方に対しては予算の重点配分をすべきで、そのために多少、市場における経済競争の活力がそがれることがあってもそれは仕方がない。そう主張することで「守旧派」といわれるならば、私はあえてその汚名を着る覚悟です。あの人が言う「民」とは、間の業者のことで国のことではない。私は官は国民の補完をすべきだと言いたい。
 もちろん、弱者に対して具体的にどこまでの金額を配布してゆくかという点は、いろいろな意見もあるだろうし� ��細部にわたって検証していかなくてはならない。私もまだそこまでは検証していません。これからやらなくては−−。
 累積した財政赤字削減の手段については、資産再評価という手がある。たとえば東京の霞が関にある三菱銀行とかの薄価は、これは、戦前・戦後の動乱期の価格をそのまま薄価にしているためで、これを実勢価格に猶したら、50倍から100倍の固定資産となる。これで固定資産税をとれればいいが、それじゃ皆嫌がるから、差額の分だけ国債を買ってもらう。そのかわり、これは無利子。固定資産税のかわりなんだからね。もちろん、法人だけでなく、個人にも同様に無利子国債を買ってもらう。この方法でやると、資産では50兆円から100兆円になるんです。

−−それは、要するに政治がつくったツケを民間に払わせることではないですか。個人にも無利子国債を買わせるというが、都民すべてが高額所得者ではない。土地再評価をしたから、さあ無利子国債を買え、などと強要されたら、ほとんどの庶民は東京に住めなくなりますよ。結局、都市住民から金をとって、地方に振り分けるというだけのことでしょう。

荒井▼いや、何も都市住民をいじめようと言うのではない。しかし、これは年の論理と地方の論地のぶつかり合いなんだ。それをどう調停するかということこそ、まさに政治なんですよ。今までは、経済規模がどんどん拡大してきたので、こうした対立や矛盾は顕在化しなかった。しかし、これからは違う。やはり皆がね、それぞれ十の要求を五までに我慢してやっていかなくては。私はあくまで「地方」と「弱者」を擁護する立場に立つけど、都市か、地方か、という二者択一になっては不幸になる。お互いに理解し合い、譲り合わなければやはりいけないでしょう。


都市の論理、地方の論理




 小泉氏・荒井氏との対話を通じて、はからずとも浮かび上がってきたものは、「郵政三事業民営化の是非」をめぐる議論の、その奥に控えている「大都市の論理」と「地方の論理」という対立軸だった。五五年体勢が崩れ、保革の対立軸が消失した今、その空白を埋めようとするかの如く、「保守対リベラル」という図式がやたらに濫用されているが、その空虚さに比べ、「大都市対地方」という構図には、はるかに深く社会に根差すリアリティーがある(「保守対リベラル」)という図式など、実際には成立さえしていない。自分はリベラルではない、保守であると自認する政党や政治家などどこにもいないからだ。誰も彼もがリベラル気取りで、従ってその記号はなんの意味内容ももちあわせていない)
 この「大都市対地方� ��という対立軸には、行革や財投の行方ばかりではなく、東京一極集中、地方分権・遷都、情報インフラ整備、農政、選挙制度および票格差の問題など、、内政の重要課題の大半がからみついてくる。荒井氏はこの「対立軸」という言葉の強さを嫌い、「解決軸」という言葉を用いるよう提唱しているが、現在の段階ではそれは安易な妥協や「足して二で割る」形の折衷的「解決」を連想させてしまい、同意できない。いま必要なのは、この対立軸に沿って諸問題を徹底的に掘り起こし、議論を埋めることである。大げさに響くかもしれないが、21世紀の日本のグランドデザインは、その論理の深まりの中から立ち現れてくるはずである。



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