小泉純一郎
たった一年で「暴論」が「正論」になった
−−政治家にしろ、各界のオピニオン・リーダーにしろ、誰もが「行政改革」と「規制緩和」の必要性を口にする時代ですが、いざとなると「総論賛成、各論反対」で、ほとんど何の変化も起こらない。あるいは何の変化も起こそうとしない。そうした中で、政治家としては例外的に小泉さんは「郵政三事業の民営化」という具体的な政策課題を掲げ、各論レベルでの論議を喚起されています。今日は単刀直入に、おうかがいしたい。行革が必要であるとして、なぜ「郵政三事業の民営化」がもっとも優先されるべきだと、お考えなのですか。
小泉▼この数年来、行政改革については論議が積み重ねられてきたのですが、中でもとりわけ、「税金の無駄使い」とか「官僚の天下り先」として批判のある92の特殊法人の統廃合が焦点となっていた。ところが、あれほど政治主導でやると公約してきたにもかかわらず、4年もかけて討議してきた結果、決まったのは、日本輸出入銀行と日本開発銀行の統合だけでした。統合して、ではどれだけ事業が縮小されるかというと、たいして変わらない。はっきりしているのは、総裁がひとりになり、官僚の天下りポストがひとつ減った、それだけなんです。
そもそも、この特殊法人は、なぜ事業活動できるのか? それは財政投融資制度から資金が出ているからで、原資となっているのが郵便貯金、簡易保険、年金の 郵政三事業です。そこの金があるから、不必要なところまで金が流れてゆく。だったら、もとを絶ってしまえば、黙っていてもすべての特殊法人の見直しをせざるをえない。行革の根本的理念というものは、「官は民の補完に徹すべし」というもののはず。官業と民業の役割を見直し、どうしても民間にできないことだけ、官が金を出してやるべきだ。
そう考えてみると、郵政三事業は民間でできないのか。実際には、今でも封書とハガキの配達以外、全部、民間でやっているんですよ。それならば充分に民営化できるはず。しかも、封書やハガキの配達をやらせてくれと民間の方が言っている。なのに、なぜ独占するのか?
よく行革で大蔵省の分割とか、財政と金融の分離とか、予算を大蔵省から官邸に移せという案が出る。 やってもいいよ。でも、それでどれだけ人が減るのか。ひとりも減らない。どれだけ金が浮くのか。一銭も浮かない。
−−名称を変えるだけで、実質は変わらないと?
小泉▼そう。それに比べれば、郵政三事業を民営化して株を売却すれば、低く見積もっても、10兆円の売却益が出る。なおかつ30万人の役人を減らすことができて、しかもすべての特殊法人の見直しが始まる。一石二鳥どころじゃない。一石数鳥の効果がでる。
4時間勤務の国家公務員
−−過疎地のようにコストのかかる場所でも、ほぼ均一の料金で郵便のサービスは行われています。民営化すると利潤の追求が最優先となり、そうした地域へのサービスがおろそかになり、不利益をこうむる人々が出てくるのではないか、という懸念がありますが。
小泉▼小包を民間に許可するかどうかという時の議論とまったく同じです。今、どうなっているか?
ほぼ99%の地域に民間の宅配業者が届けているじゃないですか。小包ができるのに、封書、ハガキができない理由はない。郵政省は、民間の宅配便がスタートしてから以後、郵便小包の配達料金の大口割引を始めた。民間が入って競争が始まったから値下げをしたわけです。結局、こうした競争を避けるために、封書、ハガキの配達の独占を維持したいだけではないか。それでは本末転倒じゃないか。
ちなみに今、民間の業者がクレジットカードの配達を始めようとして、裁判になっているんです。
−−ヤマト運輸ですね。
小泉▼そうです。郵政省は「クレジットカードは信書であり、配達してはならない」と主張する。民間業者では、信書を配達する際の守秘義務を守れないと言うのです。こんなおかしな話はない。
郵便局は年末になればアルバイトを募集している。年賀状配達のアルバイトは民間人です。役人は、「民間の業者は信用できない」と言っておきながら、民間人を使っている。最近では、それでは具合悪いというので、アルバイトを4時間勤務の国家公務員にしようとしている。今、誰もが行政改革で「役人を減らそう」と言っているのに、逆に増やそうとしているわけです。「行革が必要だ」という世論を屁とも思わない、役人のこの傲慢さ。自らの仕事を決して減らそうとせず、民間の仕事を奪う形で自らの権限を広 げていき、人数を増やしていく。この肥大化、増殖意欲というものは恐るべきものです。
来年になりますと、旧国鉄債務の返済問題が大きな課題になってきます。今のままだと、27兆円以上が国民負担ということになる。仮にJRの持っている土地を全部処分するとか、株式を全部売却しても、7兆円分にもならないといわれている。となると、少なくとも20兆円は国民が負担しなきゃならん。どうやって負担するんだ? 増税か? あるいは借金して先送りか? 運賃を値上げするのか? ともかく国民負担は決まっている。放っておいたら、また財投が使われるでしょう。
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